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「FIRST NOTE」 (リーグ第1節・横浜F・マリノス戦:1-2)

 試合後のミックスゾーン。

脇坂泰斗に試合に関する質問をひとしきり終えて、「じゃあ、そろそろ切り上げようかな」という頃合いになったときのこと。マンツーマンで取材していたこともあってか、本人から「上から見ていて(試合は)どうでした?」と感想を尋ねられた。

 うーん。
内容も悪くないし、チームのやろうとしている方向性は伝わる試合だった。ただ結果は敗戦。そこで率直な感想をこう伝えた。

「チームがやろうとしていることにはすごくトライしているけど、もう少し相手を見てサッカーしても良かったのかなという気もしたかな」

 立ち上がり、仕込んできたビルドアップを積極的に表現しようとしていたし、前半途中から見せた山根視来による可変型新システムでボールを保持し続ける狙いも、試合展開を考えたら一定の効果が感じられるものだった。

 ただ自分たちが主語になり過ぎるというか。「相手の出方にどう対応するのか」、あるいは「相手守備陣の空いている場所をどう突くのか」といった「相手を見てサッカーをする」という意識の優先度が、選手間でいつもより低かったようにも感じた。

 そこの背景も理解はできる。
開幕戦というのは、キャンプを含めて準備してきた内容を表現することを優先してしまうものだからだ。一ヶ月以上準備してきた取り組みの最初の「発表会」なのだから、そこは当然といえば当然。ゆえに結果だけを取りに行く作業よりも、内容にこだわりたくなってしまう心理も強く出てしまうのは仕方がない側面がある。

 試合が始まると、川崎フロンターレはセンターバックのジェジエウと車屋紳太郎、そしてGKチョン・ソンリョンの3人で丁寧にボールを動かそうとしていた。

 横浜F・マリノスは、前傾姿勢で思い切りよく奪いにきた。フロンターレの選手達はプレスの速さに目が慣れていないのか、探るような回しでボールを運ぼうとする。タイトにマークされている中盤にパスを出せないことで長いボールも選択するが、最前線の宮代大聖が厳しい監視でボールが収められず、自陣からなかなか脱出できなかった。あの時間帯について、脇坂泰斗はこう振り返る。

「前半は慎重になっていた部分はあります。少し迷って(パスを)止める回数が多かった。それによって後ろにしわ寄せがきてしまうシーンが多かった。後半のように見えたらつける、動く。そういうところを前半からやっていければと思います」

 マリノスのプレスは、基本的に外切り。サイドのコースを切りながら、中央にボールを出させようとする守り方である。ただサイドのコースを塞がれていても、一列を飛ばしたミドルパスで味方に届ければ、今度はサイドはフリーで受けられる。いわゆる、ラインを飛ばすパスだ。

 開始4分の失点場面は、ソンリョンが「ラインを飛ばすパス」を選択したプレーで起きた。左ウイングであるエウベルを超えて、右サイドにいる山根視来に届ける浮き球になるはずだった。しかし、これがエウベルの頭上を超えず。こぼれ球に反応した西村拓真にゴールネットを揺らされた。

チョン・ソンリョンは2016年から在籍し、今年で8年目。ただ彼は足元でのつなぎのミスが少ないGKで、失点に直結した場面は見た記憶がなかった。それがこの開幕戦で起こってしまったのだ。

 開始5分にしてゲームプランに影響が生まれる失点。実は去年の第23節・浦和レッズ戦以来、川崎フロンターレはリーグ戦13試合連続先制点中で、その連続記録もここで途切れてしまった。

 しかし試合時間は、まだ85分以上残っている。
ここからどういう姿勢をピッチで見せていくのか。自分が見たいと思うのは、そこだった。

■過去6シーズン、リーグ開幕戦では一度も負けたことがなかった鬼木監督。この試合で起きていた「開幕戦特有の難しさ」とは何か。

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